チャーンを防止するカスタマーサクセスマネジメント
SaaS事業の健全性は、カスタマーを囲い込んでチャーンを防止する能力と直接紐づいています。チャーンを防止するには、カスタマーを満足させる必要があります。つまり、契約時にカスタマーと約束した彼らの事業上の成果をきちんと提供しなければならないということです。この記事では、カスタマーの幸福度を測定する方法と、それを上げるための方法についてご紹介します。また、最近注目を集めているカスタマーセクセスについても見ていきます。
ここで紹介する考え方の多くは、Matrix社のポートフォリオ会社のカスタマーサクセス責任者を招いた会議での議論に基づいています。この会議に参加してくださった皆さん、そして Totango社の Guy Nirpaz氏、Gainsight社の Nick Mehta氏に感謝します。
おさらい:SaaSで成功するためにチャーンがなぜ超重要なのか?
この投稿では「SaaSで成功するためにチャーンがなぜ超重要なのか?」を検討します。要約するとこうです:
Totango社のCEO、Guy Nirpaz氏のスライドを使って説明しましょう:もしあなたの事業がリテンションモデルなら、あなたの売上の大半は契約後にもたらされます。
新規契約でチャーンを相殺するのは成長するほど難しくなる
下の円グラフは、定期売上が1000万ドルある操業3年目のSaaS企業を例示しています。その後、同社は6年目に定期売上が1億ドルになったとします。これは、毎月2.5%のチャーン、即ち年間30%の定期売上を失う計算です。
左の円グラフから分かるように、規模が小さい時は、解約による損失はわずか300万ドルです。それほど深刻な数字ではなく、新規契約で簡単にカバーすることができます。しかし、右の円グラフを見ると分かるように、会社が成長して大きくなると、チャーンで失う売上は膨大です。前年と同じ売上を維持するのに必要な 3000万ドルの新規契約を取るのは非常に困難な問題です。
この問題の解決策は2つあります:
- 解約するカスタマーの数を減らす
- ネガティブ レベニュー チャーンを達成する
ネガティブ レベニュー チャーンは、既存カスタマーからのエクスパンション、またはアップセル/クロスセルに伴う売上の追加分が、解約するカスタマーから得られるはずだった売上の喪失分を上回った時に生じます。
ネガティブ レベニュー チャーンをどう達成するかはこの投稿:「SaaSで成功するためにチャーンがなぜ超重要なのか?」が参考になります。
そして、ネガティブ レベニュー チャーンを達成した時のLTVの計算方法は私の記事:「真のライフタイムバリュー(LTV)はいくら? – DCFを使えば答えが分かります」を参照ください。…
Unlocking the Path to Negative Churn
ネガティブチャーンへ続く道
要約:SaaS企業が成長するにつれ、チャーンが重要な問題となる理由を図解します。 SaaS企業の成長を大幅に加速させる非常に驚くべき要因についても見ていきます。(この記事は、SaaS企業だけでなく、リテンションモデル事業を推進するすべての企業に有用です)
はじめに
SaaS企業が成長するにつれ、定期購買契約のベースが大きくなり、様々な要因によるチャーンの数字も増大します。チャーンに伴う収益の減少を補うために、さらに多くの新規契約を獲得する必要が生じます。その結果、成長スピードは大幅に減退していきます。このカラクリを説明するため、非常に単純なモデルを構築してみたので、その結果をグラフでご説明しましょう。このモデルでは、MRR(月次定期収益)はゼロスタート、初月に10,000ドルの新規契約を獲得、その後は毎月2,000ドルずつ新規契約が増加する、という前提です(下記グラフの青い点線)。
赤い線と黄色い線は、カスタマーの契約解約に伴い失われる収益(チャーン)を示しています。 すなわち、毎月2.5%、及び5%のチャーンによる影響を示しています。
このグラフを見ると、スタートアップの初期段階では、チャーンはそれほど大きな数字でないことがわかります。しかし、5年目の終わりに近づくにつれ、チャーンは、低い解約率(2.5%)でも、新規契約で賄うのは非常に難しい水準(月6万ドル)になり、高い解約率(5%)の場合は更に状況が悪化(月9万ドル)します。
下記グラフは、各シナリオのMRR(月次定期収益)総額での影響を示しています。
ネガティブチャーンの影響
SaaSやその他のリテンションモデルでは、ネガティブチャーンと呼ばれる状況を実現することが可能です。 ネガティブチャーンは、チャーンに伴う減少収益を、既存顧客へのエクスパンション/アップセル/クロスセルに伴う増加収益が上回った場合に生じます。下記グラフは、新規契約に加え、既存顧客からの毎月2.5%の増加収益を獲得した場合を示しています(緑の線)。
結果はかなり衝撃的です。 既存顧客からの増加収益は大きくなり始め、5年目の終わりには毎月18万ドル近く貢献します。 MRR総額ではどれだけ影響が生じるかみてみましょう(下記グラフの緑の線)。
素晴らしい結果です。チャーンが2.5%の時よりも3倍近く大きなビジネスに成長します。明らかに、ネガティブチャーンを獲得することは、成長する上で最も強力なアクセルの1つと言えます。ただし、ネガティブチャーンを達成するのは大変難しいので、ネガティブチャーンは無理でも、チャーンを0%にできたらどうかと疑問に思いますね。下記グラフの点線をご覧ください。
チャーン0%の線は、黄色の線(チャーン2.5%)よりも約6割高いことがわかります。
ネガティブチャーンをどう実現するのか?
ネガティブチャーンを実現するには、次の3点のうち1つ以上を達成する必要があります:
・エクスパンション(既存プロダクトからの収益拡大)
時と共に増える利用基準に基づき料金が上がる価格モデルを使うことで最も効果的に達成できます。 例えば、Dropboxはより多くのストレージを使用するほどより多くの料金を請求します。 Eメールのマーケティング会社は、Eメールのリストが増えるほどより多くの料金を請求します。価格軸をどう適切に設計するかについて更に考えたい方は、別の記事「スケールする価格設計:SaaSの収益を上げる重要なツール」をご参照ください。
・アップセル
既存顧客に、より高度な機能をもつ高価格帯プロダクトへアップグレードしてもらいます。
・クロスセル
既存顧客に、追加で他のプロダクトまたはサービスを契約してもらいます。
ネガティブチャーンの時にLTVをどう計算するのかに関しては、別の記事「真のライフタイムバリュー(LTV)はいくら? – DCFを使えば答えが分かります」をご参照ください。
エクスパンション/アップセル/クロスセルは同じ営業部隊で良いのか?
固く速攻性あるルールではありませんが、私は通常、営業部隊は、新規顧客を追うハンターと、既存顧客からの収益拡大に取り組むファーマとに分けることをお勧めします。これには2つの理由があります。
・フォーカス:もし私が営業マンで、収益を増やすためのコールを既存顧客にするか新規顧客にするか選べるなら、既存顧客を選択します、なぜならそれが最も簡単だからです。 つまり、両方を担当すれば新規顧客にフォーカスすることは難しくなるのです。…